ラボ訪問 福田 敦志 准教授
実践から生み出される理論を追究する
総合教育系(学校教育部門)
福田 敦志 准教授
「子どもの頃から活字が好きで、外で友だちと遊ぶことよりも家で本を読んでいることが好きな子どもでした。小学生のときは図書室で本を借りて、次の日に返して、また借りての繰り返しの日々でしたね」と福田先生は記憶を辿りながら話し始めました。
「広島大学に進学し、教育学や教育方法学を学びました。所属していた研究室には『辞書とテレコの間』という合言葉がありました。辞書を引きながら英語やドイツ語で書かれた文献を読んで、そこで描かれている教育の理論や実践が、どのような時代状況のなかで展開されたものなのかを含めて研究すること、これが『辞書』の意味する内容。『テレコ』、これはテープレコーダーのことで、学校現場等での教育実践の事実から、何が問題とされ、その問題の解決のためにどのような手立てを講じられ、その結果として何が生み出されたのかを浮かび上がらせ、理論化していくことを意味している。
加えて、ここで生み出された理論を手がかりにして、実践家が次に何を、どのようになすべきかに関する具体的な方針を実践家とともに共同で構想していくことをも、『テレコ』には含まれています。こうした『辞書とテレコの間』を往還しながら、教育の原理原則を明らかにしていくことが教育方法学であるという思想に、深く納得したのを覚えています」と振り返ります。
福田先生の研究は、国内外で展開されている教育実践の理論化に挑戦することです。「研究者は実践家が行ってきた実践を実践家と共に理論化する。また、その理論をもとに実践家は具体的な方針を研究者と共同で構想し、再度実践する。それをまた研究者は実践家とともに理論化する。そういう実践家と研究者の共同による教育実践の理論化と、理論と実践の往還関係が、教育方法学には欠かせないのだと思います。また、その実践に基づく理論は、同じ時代を生きる他の子どもに対する実践にも応用することができる。実践を切りひらく、こうした理論化に挑み続けたいのです」と語ります。
福田先生の研究には、上述した教育実践の理論化のほかに、18世紀から19世紀にかけて活動したスイスの教育実践家であるペスタロッチーの教育実践の研究があります。「その教育実践に取り組もうとした彼の問題意識は、どのような問題と『対決』しようとして、どのように導き出されたのか、その問題意識に対してどのような『選択』が行われたのかを関係づけながら解釈を行わなければならないという考えが、1990年代のペスタロッチー研究の主流でした。要するに、今どのような情勢があって、それに対してどのような課題が隠れていて、その課題に対するどのような対決の方法があり得るのかということを考える教育方法学の研究と同じなんです」と語ります。ペスタロッチーという「古典」は、教育実践における「対決」と「選択」の関係を示すもので、福田先生にとっては時代を超えて常に現代的なものとして読めるものだといいます。
最後に、本学学生について伺いました。「学生には、特に母語ではない他言語で書かれた文献も読んでほしい。例えば、英語の文献で『Learning Democracy in School and Society』という作品があります。日本語で書かれている場合はさらりと読み流しそうなものですが、ここで書かれている『Society』とは何を示しているのかを考えないわけにはいかないでしょう。もし学校と『社会』と訳すのなら、子どもだけの『社会』なのか、大人も含めた『社会』なのか、はたまた地域『社会』のことか、作者は『Society』という言葉にどのような意味を込めているのか、前後の文脈を読みながら1つの単語に対して本気で考え出す。そんな思考回路を、他言語で書かれた文献を読むことで養ってほしい。そうすると、子どもが発する言葉の意味を一面的に捉えることなく、立ちどまって、子どもの背景などを視野に入れて言葉の意味を考えることができるようになるのだと思います。そんなふうに言葉を大切にすることを自分にも課したいし、教育や福祉に携わる人にはそうであってほし いと願います」
(2020年10月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。